孤影












 私のよく知るその方は、いつもおひとりで月を見上げていました。
 夜に咲く花のように、秘めやかに。










 藍色に沈んだ天空に浮かぶ月は、触れれば冷たさを感じさせそうなほどに蒼く。厳かに、その輝きを見上げる静謐な後姿に、私は言葉を掛けるのを躊躇いました。
 ―――もう何度、その背中を見詰めてきたことでしょう。
 ―――ここにはないものに思いを馳せるそのお姿を見る度に、どれほど胸を締め付けられたことでしょう。




「ルック様は、お月様が欲しいのですか?」
 そう訊ねた幼き頃の私に、ルック様は微笑んで答えられました。
「そうだね。欲しいのかもしれないね」
 けしてこの手には届かない、得られないとわかっているもの。わかっていて尚、焦がれずにいられないもの。
 ―――ルック様。セラでは駄目なのですか?
 ―――私では、あなたを救うことは出来ないのですか?
 淋しそうなその微笑みに向けて、どれだけそう訊ねたかったことでしょう。
「セラ」
 そして、まるで私の問いなど見透かしたかのように、ルック様は私に手を差し伸べるのです。
「月には届かないから、せめて二人で手を繋いでいようか」
 促されるままに繋いだ手は、月にその温もりを奪われたかのように、冷え切っていました。




「セラ」
 優しく耳を打った声に、私は現実に引き戻されました。
「………いよいよだね――」
「はい」
「ここまで来たら……もう、後戻りは出来ない」
「元よりそのつもりです。ルック様はルック様の信ずる道を行かれませ。セラは最後までお供致します」
「―――僕が自分で招いたことだが、ハルモニアの後ろ盾はもうない…君には大きな負担を掛けることになる」
「私の力はルック様のものです。お気に病まれることはありません。どうか意のままに、私をお使い下さいませ」
「すまない―――」
 そう言って瞳を伏せたルック様の横顔は、やはり淋しそうで―――切なくて。
 ……わかっているのです。
 私は本当の意味で、この方のお役には立てないのだと。
 喩えグラスランドの軍勢とひとりで渡り合えるほどの魔力を持っていても、私にこの方は救えないのだと。
 どれほどに切望しても、一番守りたい存在であるこの方は、私の力では守ることが出来ないのだと。
「明日は早い。君も、もう休んだほうがいい」
 幼子を諭すようなルック様の口調は、あの頃と少しも変わっていなくて。
 けれど、ルック様。セラはもう知っているのです。
 ルック様の瞳はセラを優しく見詰めて下さるけれど、ルック様の心の中に、セラはいないのだということを。
 私では―――月の代わりにはなれないのだということを。





 それでも―――。
「ルック様。セラはもう少し、ここで月を見ていとうございます」
 物理的な距離など、あなたには何の意味もないのだとわかっていても。
「ここにいても、構いませんか?」
「―――風邪を、ひかないようにね」
 風除けの外套をそっと肩に掛けて下さる、その手が嬉しくて。






 ルック様。
 救われることのない命であるというのならば、せめて、あなたの望みのままに。
 喩え、月にはなれなくても。あなたの孤独に少しでも寄り添えるのなら。
 それが世界の意志に反することであっても、セラは…セラだけは最後まで、ルック様のお傍におります。
 ―――百万の煉獄の業火へと、共に堕ちてゆきましょう。














一発書きセラルク。ルクセラではなくてセラルクだと言い張ります(笑)
……小話にすらならない走り書きですみません(土下座)
幻水3のCPでは、この2人が一番好きです。
普段ツンばっかりのルックだけど、セラの前でだけはデレ全開だったりすると凄く良い。親バカ萌え(笑)




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