―――遠い背中―――




「………くそっっ……!!」
 食い縛った歯の間から漏れた呻き声と共に、スノウは手にした剣を床に思い切り叩き付けた。人気のない深夜の訓練所に、耳障りな金属音が響く。
「くそっ……なんで……どうして……!!」
 荒く息を吐き、歯軋りを繰り返し、握った拳で壁を殴りつけた。それでも込み上げてくる衝動は治まらない。身の内で荒れ狂う炎は鎮まってくれない。
「なんで……!!?」
 思い出すのは昼間の出来事。敵の囲いを見事な剣捌きで崩していくカルマと、そして、恐ろしく精密な弓術で彼を援護する青い服の少年。ふたりは戦闘中、時折鋭い声で名を呼び合うのみで、ろくに会話も目配せもしなかった。それなのに、繰り広げられたのは、互いに互いの動きを完璧に把握しているかのような連携。忘れたくてもその光景は、目にしっかりと焼き付いて離れない。
「…どうし…て………」
 彼の一番近くにいるのは自分だと、スノウはずっとそう思ってきた。彼の剣の呼吸を、自分こそが一番理解しているのだと信じて疑わなかった。しかし、目の前の現実は、いつの間にか理想とはまるで違うものへと変貌を遂げていた。彼は今、自分の目の前で、自分ではない他の人間と肩を並べている。彼に背を預けられた少年も、まるで彼のことを全て知っているかのような動きで、その期待に応えてみせている。
 身勝手な感情に任せて彼を手放してしまったのはスノウ自身だ。だが、どれほど長く離れていても、彼との距離は変わることはないのだと、どこか呑気にそう考えていた自分自身の浅はかさを、嫌というほど思い知らされた。自分はもう、彼にとって必要のない存在なのかも知れぬという恐怖に、今更ながらに打ちのめされた。
「わかってる…わかってる…!!わかってる…っ…けどっ……!!」
 突き放しておいて、ムシのいい話だと、充分に自覚してはいるけれど。
「どうして……僕じゃ…ないんだっ……!?」
 君の隣に。何故、僕の居場所を残しておいてくれなかったのか、と。
 昏い絶望に身を焦がしながら。孤独な夜に、スノウは吼えた。
















理不尽だと、わかっていても。


嫉妬だったり、自尊心だったり。スノウは人間の持つマイナスの感情を、
極端にクローズアップされて作られたようなキャラですよね。
けど、そういう面を否定せず、受け入れた上で前に進む決意が出来るのが、
スノウの強さだと思ってます…って贔屓目すぎますかね?





戻る?

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送