―――やくそくはいらない―――




 ふと、こちらに向かってくる人影に気が付いた。
 夕陽を背景に浮かび上がるシルエットは、けして錯覚などではなく、痛いほどに記憶に灼きついたそれで。身に付けた衣服や背に負った弓は、覚えのあるものとは異なっているようだったけれど、少し治まりの悪い金茶色の髪が、そよぐ風にふわふわと揺れる様は相変わらずで。良かった、と、ただそれだけを思った。
 遮るものなど何もない、草原のただ中の、細い細い街道。行き交う旅人は今は、自分と彼のふたりきり。こちらに気付いてないはずもないけれど、彼の足取りは些かも揺るがなかった。逆光で表情は見えないが、きっと眉ひとつ動かしてもいないだろう。自分と同じように。
 最後に別れてから何十年という時が過ぎたのか、数えることすらしなかったけれど。それでも懐かしいだなんて思いもつかないほどに、彼はやはり彼で。どれほどの年月を重ねようとも、敵わない一瞬というものがあるのだと知らしめるほどに、その存在は鮮やかだった。
 どこまでも続く互いの道は、けしてひとつにならないことを知ってはいても。
 ふとした瞬間に訪れる、この刹那の交差が、きっと何よりも僕たちらしいと思うから。
 肩が触れるほどの距離、それでも歩みを止めなかった彼が、擦れ違いざまにすっと片手を上げた。まるで以前から打ち合わせてでもあったかのような、躊躇いのない所作で。そして自分も全く同じように、彼の動きに合わせて片手を上げる。
「じゃあな」
「じゃあね」
 打ち鳴らされたふたつの掌が、ぱん、と小気味の良い音を立てた。
 そしてそのまま、何事もなかったかのように、彼は歩み去っていく。自分が歩調を緩めぬのと同じように。
「またな」じゃない。再会の約束なんて、そんなものは要らない。
 振り返りはしない。名を呼ぶこともしない。追いかけて抱き締める必要もない。きっと彼も同じように思っているに違いないから。
 それでも、永遠を超えた一瞬は、今、確かに自分たちの目の前にあった。
 次に会えるのはいつだろうなんて、考えたりはしない。
 きっとこの次、いつまたどこで会うことになっても。きっと彼は顔色ひとつ変えずに、片手を上げて「じゃあな」と言ってくれるだろうから。
 思い出さなくても、けして忘れることはない。僕と彼のそんな距離。
 多分、ずっと変わらない。
 十年経っても、二十年経っても…百五十年経っても。
 何もかも移ろい行く世界の中にも、こんな風にひとつくらいは、変わらないものがあってもいい。
















カルマとテッド。
ウチの2人は幻水4の戦争後、結局一度も再会してはいないのですが、妄想する分には、まあいいだろと(笑)
テッドと4主の距離感はこういうのに萌える。
どこまでも遠くて、そして近い存在。名前の付けられない関係。
思い出さない。でも忘れない。それでいい。それがいい。





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