■Malda 〜次に会うときは〜■







 隣から聞こえた優しげな声に、咄嗟に反応出来なかった。
 何でもないことのように。余りにも簡単に言われたそれが、まるで雲の上の出来事のように聞こえたから。
 暗がりの中、薄く瞳を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、遠い海の向こうに残してきた、幼馴染みの後姿。
 けれど今、ふたりを本当に隔てているのは、物理的な距離などではないことを、リトアニア自身が一番よく知っている。
 ―――また、一緒になればいいじゃないか。
 ああ、夢のような話だと、そう思う。
 小さい頃からいつも一緒だった。喜怒哀楽を一番たくさん分け合った相手だった。長い歴史の中、幾度となく離れ離れになっても、帰る場所は必ず彼の傍らと決まっていた。
 それなのに。
 繋がっていたはずの彼の手が……酷く遠い。
 望む気持ちよりも今は、不安のほうが強くなっていた。
「そうなれたら…いいですね」
 協力するぞ、と意気込むアメリカに、しかしリトアニアは結局、曖昧な言葉を返すしかなかった。






 視界いっぱいに翻る軍旗。鼓膜を揺るがす鬨の声。
 肌を灼く陽射しの強さと、風に混じる乾いた土の匂い。
 剣を携え、馬に跨り。相棒と共にどこまでも駆けた。
 ―――ふたり一緒ならどこまでも行ける、世界の全てをこの手に出来ると。あの頃は確かにそう信じていた。
 誰かの意志も都合もささやかな幸せもお構いなしに、時は流れ、世界は一切合財を飲み込んで動いていく。
 置き去りにされたのは、俺なのか―――それとも。






「リトも一緒に来るんだし」
 ずい、と目の前に手が突き出される。視線を上げると、毅然とした顔で笑う若草色の瞳があった。
 この瞳が陰る様を、リトアニアは見たことがない。少女めいた繊細な外見とは裏腹に、彼は気性が激しく、人一倍負けん気も強い。ロシア、プロイセン、オーストリア―――列強と呼ばれる国々に幾度蹂躙されても、その度にこの相棒は、驚くほどの強さで奈落の底から這い上がってきた。
 きっと、この世の何ものも、彼を本当の意味で屈服させることなど出来ないだろう。その強さと誇り高さが、いつもリトアニアには眩しかった。
「連合王国を復活させるんよ。これ以上あいつらに、好き勝手なことはさせんし!俺とリトの家を踏み荒らしたお返しに、今度は俺らがロシアとドイツの家叩き潰してやるんよ。どーよリト!」
 俺らが組めば、怖いものなんて何もないしー。そう胸を張って、ポーランドは笑った。
 憎らしいほどに傲慢で、自信に満ちた笑顔。
 彼と共に戦場を駆け抜けた記憶は数限りなくあったが、その度に自分はこの笑顔に支えられてきたのだと、今更ながらにリトアニアは思う。
 誰よりも愛しく頼もしい相棒。自分の全てを委ねてきた、半身とも呼べる唯一の存在。
 震える息をひとつ吐き出して、リトアニアは真っ直ぐに彼を見返した。
「―――もうやめよう、ポーランド。こんなことはもう、終わりにしなくちゃいけない」
 ポーランドの大きな瞳が、更に零れ落ちそうなほどに大きく見開かれる。衝撃や当惑以前に、何を言われたのか理解出来ない、そんな表情がそこには浮かんでいた。
「リト―――何言うとるん?」
 喉に絡むような声で、ポーランドは呟いた。
 恐らく彼は考えたこともなかったのだろう、リトアニアが自分の言葉に逆らうなど。常に寄り添いあい、同じ生き方をする。ポーランドの選んだものをリトアニアも選ぶ、それがこれまでの当然だったのだから。
 今だって、共に歩むことに異存などない。
 だが、失った全てをこの手に取り戻すと――そう決意するには、既に余りにもたくさんの血が流されすぎている。
 連合王国の栄華は、既に過去のものでしかないのだ。
「俺はもう嫌なんだ。戦って戦って戦って―――これまでにどれだけの人間が死んだ?殺されたから殺して、また殺されて……こんなことを繰り返したって、何も残りはしない。ポーランドにだってわかるだろう?もう、俺たちの時代は終わったんだ」
 かつてあれほどの栄華を誇った連合王国が何故滅びたのか、今のリトアニアにはわかるような気がしていた。自分たちの手の内に全てを納めるには、あの国は余りにも広すぎたのだ。抱えきれないほどのものを持とうとすれば、必ずどこかに綻びが生じる。零れたものを拾い集めることに気を取られれば、今腕に抱えているものまで擦り抜けて落ちてゆく。連鎖はやむことなく繰り返される。
 終わりにしなくては。
 全てを失くしてしまう、その前に。
「―――信じられん」ポーランドはきゅっと眦を釣り上げた。「俺もリトも、やっと独立出来たんよ。欧州大戦(WW1)のダメージで、ロシアとドイツの力も弱まっとるし。今がチャンスだって、そう思わん?大体、あいつらが我が物顔で居座っとる所の大半は、元々は俺とリトのものだったんだし!今ここであいつら追い出しとかんと、絶対また付け上がるに決まってるし!やられる前にやらんと、痛い目見るのはこっちなんよ?」
「そしてまた血が流されれば、彼らはその償いを求め、再び俺たちに刃を向ける―――もうたくさんだ。今、この手の中にあるものだけで充分じゃないか。確かに昔に比べたらちっぽけかもしれない。だけど、俺たちが自分の意志で取り戻した、胸を張って誇れる場所だ。ここだけは何があっても守る―――でも、俺はこれ以上は、もう何も望まない」
「本気でそう思っとるん、リト?」
 頑是無い子供のように、ポーランドは言い募った。
「リト悔しくないん!?俺らが400年も掛けて作ってきた国を、こんな滅茶苦茶にされたんよ!?俺らが今まであいつらにどんな仕打ちを受けてきたか、忘れたとは言わさんし!―――リトの背中の傷だって……!」
「――――!」
 肺が引き攣れたような気がして、一瞬息が止まる。
 ……知っていたのか。
「俺に隠し事しようだなんて、百万年早いし。どんだけ長い間、リトのこと見てきたと思っとるんよ?」
 きっ、とリトアニアを見据えるポーランドの瞳は、怒りと悔しさの為か潤んで赤くなっていた。
「リトにそんな怪我させた奴を、俺は―――俺は絶対許さんし!」
「ポーランド……」
小柄な肩を震わせながら見上げてくる相棒に、リトアニアは静かに微笑みかけた。
「ありがとう―――俺の為に怒ってくれて。でも」
「でもじゃないし!お人好しなのも大概にしろだし!」
「……俺にだって、譲れないものはあるよ。国であることを放棄するつもりもない。―――だから、抵抗はするよ。彼らに服従はしない。どんなに踏み躙られても、俺は膝を屈しない。でも……決めたんだ。俺はもう、誰も殺さない。ロシアさんも、ドイツさんも」
 そして、おまえのことも殺させない。そう続けようとした声は、眼前に突き付けられた銃口に遮られた。
「………!?」
「もういいし」
 普段の快活な響きからは想像もつかない低い声で呟き、ポーランドはリトアニアの左胸に照準を定めた。
「リトがやらんのなら、俺ひとりでもやってやるし」
「―――っ、ポーラン……!?」
「出て行け」
 淡々とした声で、ポーランドは告げた。
 感情を映さない硝子玉のような瞳に、背筋が震える。
 何故。どうしてこんなことに。
―――それから、自分がどうやってその場を離れたのか、リトアニアは覚えていない。気付けば、戦火の中をひたすら西に向かって駆けていた。頭の中は真っ白で碌にものを考える力も残っていなかったが、それでも軍をヴィリニュスより撤退させる為の指揮は執ったらしい。程なくポーランド軍の侵攻によって、首都ヴィリニュスは陥落する。リトアニアはその報せをカウナスの寓舎で聞いた。
「………」
 領土の要となる場所を奪われた。だがそんなことより、これで彼とは完全に敵対関係になった、その事実のほうが遥かに胸に堪えた。
 ずっと……隣を歩いて行けると思っていたのに。
 諸外国の干渉に晒されるようになり、離れている時間が長くなるにつれ、お互いに知らないことも少しずつ増えてきていた。ロシアから受けた傷を隠していたこと。いつだったか街に出たとき、偶然行き合わせたイタリアと親しげに話していたポーランドの笑顔。
 それでも、知らないことも変わったことも何もかも。
 全てひっくるめて、自分たちだと思っていたのに。
 ―――もしあの時、彼の提案を受け入れていれば。
「……駄目だ」
 かぶりを振って、リトアニアはその仮定の先を考えるのを放棄した。新たな戦いは新たな憎しみを生むだけだ。終わらせる。その決意を翻すつもりはない。
 けれど……半身を失った痛みが消える訳ではない。
「ポーランド……」
 他に方法はなかったのか。俺たちはいつ、どこで、道を違えてしまったのか。
「もう……引き返せないのかな……?」
 か細い溜息にも似た呟きが零れた。
 もう一度…手を取り合うことは出来ないのか。
 彼の手を振り払っておいてそんなことを願う資格は、俺にはもうないのかもしれないけれど。
 窓辺に歩み寄り、硝子に額を預けて俯いた。
 無意識に桟を掴んだ指に、ぎゅっと力が込められる。
 会いたい。
 でも―――会ったところで、果たして自分に何が出来る?どんな言葉を掛ければいい?
 望んでも会えない。そんな記憶なら頭の中に幾らでも存在する。だが、どんなに離れていても、これまで彼を遠いと感じたことは一度としてなかった。
 人が呼吸をするように。
 春になれば花が咲くように。
 別れてもまた、当然のように巡り会う。それが自分たちの不文律だったのだから。
 ポーランド。
 おまえは、これで……本当に良かったのか。
 失意の底に突き落とされながらも、しかし嘆く暇も立ち止まる余裕も許されず、その後リトアニアは破綻しかけている軍と国家財政の建て直しの為に、各地を奔走せねばならなかった。目まぐるしく過ぎてゆく日々に、いつしかポーランドの顔を思い出す回数は減っていたが、それはただ、胸の傷みを煩雑さで紛らわせているだけだということは、リトアニア自身も痛いほどに自覚していた。
 だが、外貨を稼ぐ為に訪れた異国の地で。
 雇い主となった青年の思い出話を聞いているうちに、重く沈んでいた心が、ふと、ざわめいた。
「ポーランドと暮らしていたあの頃が、一番楽しかったなぁ…」
 苦笑交じりに、それでも偽りない本心を漏らしたリトアニアに、アメリカは穏やかに笑いながら事もなげに言ったのだ。
「また、一緒になればいいじゃないか」






 届くはずもないと知りながら、遠い背中に声なき声で呼び掛ける。
 おまえはまだ、望んでくれるだろうか?
 俺はまだ、望むことを許されているのだろうか?
 もし、もう一度会えたなら―――この先に続く言葉を、願いを、俺はまだ見付けられないけれど。
 それでも。神に祈る時、眠りに就く時、仕事の手をふと休めた時、よく晴れた空を何気なく見上げた時。
 思い出すのはいつも、おまえの顔だった。






 誰かの意志も都合もささやかな幸せもお構いなしに、時は流れ、世界は一切合財を飲み込んで動いていく。
 ロシアによって本国に連れ戻されたリトアニアを待っていたのは、ソビエト連邦の成立と独ソ不可侵条約の締結、そして、ポーランドへの総攻撃の決定だった。






 廃墟と化した街は、乾いた静寂に包まれていた。
 時折砂塵を巻き上げて吹き抜ける風の音以外、何も聞こえない。無残に破壊された教会、焼け焦げた木々、壁や石畳にこびりついた血の痕、そしてもの言わぬ人の骸――。戦闘はすでに終結していたが、熱と硝煙の臭いは未だ街中に色濃く立ち込めていた。
 双方共に甚大な被害を出しはしたが、ともあれ、ヴィリニュス奪還の悲願は無事果たされた。歓喜に湧く味方の陣営をそっと抜け出し、リトアニアはひとり、慣れ親しんだ街が変わり果てた中を足早に歩いていた。
 瓦礫の散乱する路地を抜けると、程なく見覚えのある広場に出る。その中心に、彼はいた。煤と泥に塗れた手足を、焼けた地面の上に無造作に投げ出して。子供のようにぺたんと無防備に、ポーランドはそこに座り込んでいた。
 足音を立てて近付いても、逃げる素振りは見せない。リトアニアと目が合うと彼はツンと鼻を上げ、若草色の瞳を悪戯っぽく煌かせて、やっぱり、と言った。
「ここで待っとったら、絶対会えると思っとったしー。な、俺の勘マジ凄くね?」
 けらけらとポーランドは笑ったが、その笑みにはどこか疲れたような色が滲んでいる。ぼろぼろの身形と相俟って、痛ましささえ感じさせた。
 深緑の瞳を僅かに眇め、リトアニアは徐に懐から取り出した銃を彼に突き付けた。
 ポーランドはやはり動じない。眉尻を下げ、僅かに口角を吊り上げて笑うその顔は、どこか安堵しているようにも、諦念を帯びているようにも見えた。
「ええんよリト。撃っても」気負いもなくさらりと、ポーランドは言った。「ロシアやドイツなんかには、絶対に殺されてなんかやらんけど。武器なんかなくたって、噛み付いてでも抵抗してやるけど。でも、リトになら」
 揺らがない視線で、リトアニアは彫像のようにその場に立ち尽くしたままだ。動きのない画の中で、熱を孕んだ風だけが、軍服の裾をはためかせて吹き抜けてゆく。
 息の詰まりそうな沈黙を、破ったのはやはりポーランドのほうだった。
「綺麗な街…だったんよな…」
 溜息にも似た呟きと共に、ポーランドはゆっくりと空を仰ぐ。立ち上った煙と砂埃に遮られて、そこは昏く濁っていた。
「リトの愛した街…俺…守れんかったし」
 自分でもわかっていた。
 連合王国の復活など、所詮は夢に過ぎなかったと。
 ただ…もう一度、金色の実りに輝くあの風景の中で、リトアニアと共に暮らしたかったのだと。
 俺が……過去に拘って依怙地になったばかりに。
 ごめんな。
 自嘲めいた笑みを浮かべた唇が音もなく綴った言葉を、リトアニアは正確に読み取った。
 銃のグリップを握る手に、力が込められる。
 ダァン、という銃声が、静寂を引き裂いて広場に響き渡った。
 ポーランドの頭上から吹き飛んだ帽子が、くるくると回転しながら瓦礫の中に落ちてゆく。
 発砲の名残の煙を仄かに立ち上らせる銃口を見詰め、ポーランドは驚きに上擦った声を上げた。
「……何でなん?何で俺を撃たんの、リト!?」
「―――今ので俺は、手持ちの弾を全て使い果たした。補給部隊が到着するまで、俺は丸腰のままだ。おまえには逃げる時間も理由もある」
「………」
「ルーマニア橋頭堡へ行け。あの地域ならドイツ軍の包囲網も手薄だ。旨くいけば国外に脱出出来る。おまえが生き残る道はそれしかない」
「リト、前に言ってたし!譲れないものがある、踏み躙られたら抵抗するって。なのに、リトを傷付けて大切なものを奪った俺を、何で―――何で見逃すんよ!?」
「早く行け!」
 耳を打つ怒号に、ポーランドの動きが止まる。
「……おまえは俺に―――親友殺しの罪を負わせたいのか!?」
 親友。
 ―――今も。今でも。まだ、俺たちは。
 呼吸を呑んで固まったままだったポーランドの顔が、くしゃりと歪む。それを隠すように袖口で乱暴に目元を擦り、小さく鼻を啜り上げ、そして漸く彼はいつもの―――口許に小生意気な笑みを浮かべた、リトアニアが最もよく知る彼の顔に戻った。
「リトの癖に、俺に意見するなんて生意気だしー。ま、折角だから聞いてやらんでもないけど?俺って寛大だしー、いやマジでマジで。だからリトは俺に感謝するとええんよ〜」
 衣服の汚れを払い落としながら―――払っても意味がないほどの汚れ様だったが―――ポーランドはゆっくりと立ち上がり、悠然とした足取りで歩き出した。未だ銃を構えた姿勢のままのリトアニアの脇を通り過ぎ、十歩ほど離れたところで、リト、と足を止める。
 声に釣られて振り返ったリトアニアを、不意打ちの言葉が捕える。
「リトのその顔、マジウケるし」
 思わず絶句するリトアニアに、ポーランドはしてやったりとばかりに笑う。刹那、彼はぱっと身を翻し、崩れかけた建物の向こう側へと駆け去った。
 その背を呆然と見送って、リトアニアははっとし、銃を持っていないほうの手で頬に触れた。
 ―――濡れている。
 いつから?気付かなかった。泣いていたなんて。
 自覚すると同時に込み上げてきた嗚咽を、リトアニアは必死に呑みこんだ。肩の力が抜け、張り詰めていた気持ちが融けてゆくのを感じて、リトアニアは震える口許を泣き笑いの形に歪めた。
「もう……ポーランドはいつもこうなんだから……」
 幼い頃からそうだった。泣き虫のリトアニアが涙ぐむと、ポーランドは慰めるどころか、べそかき顔を面白がって揶揄うのだ。その意地の悪い物言いに振り回され、怒ったり呆れたりを繰り返しているうちに、いつの間にか泣くことなどどうでも良くなってきてしまう。それを見透かしたようにポーランドは笑い、そして結局は自分も、彼に釣られて笑ってしまうのだ。
 連合王国が滅びた、あの時も。
 囚われた腕をどうすることも出来ず、ただ彼の名を呼びながら泣き叫ぶしかなかった自分を、彼はやはり鼻で笑ったのだった。
 どこまでも無神経な相棒に一時は酷く失望したものの、それを「次に会えた時には、思いっきり文句を言ってやる」という前向きな怒りに転換出来たことが、それからのロシアの下での過酷な生活を耐え抜く支えになったのかもしれない。
 リトが俺のいないところで泣くのは許せんしー。
 別れ際の憎まれ口を咎めれば、彼はきっと、そう言って笑うのだろう。そう考えるのは悪くなかった。
「感謝してあげるよ。…おまえが生きて、俺と出会ってくれたことに」
 次の涙は、再び彼に会えた時の、嬉し泣きの為に残しておこう。
 手の甲で涙を拭って、祈るように瞳を閉じれば、遠い記憶が蘇った。






 ―――我が血は汝が血、我が魂は汝が魂。
 我ら既に不可分なるひとつの身体、此れ何人も侵すこと能わず。
 神の御名において、未来永劫、違えることなき誓いとしてここに記す。






 贅を極めた王宮は消えた。
 金色に輝く麦畑も、戦火に焼かれた。
 国を、人を、世界を、圧倒的な力で押し流してゆく時代の前に、永久に共にと願った誓いは果たされることなく潰えたけれど。
 それでも、彼がこの世界のどこかにいることを、俺が覚えている限り。
 世界がどう変わろうとも。未来がどう変わろうとも。
 彼は、俺は……俺たちは、消えないから。






 また、一緒に。
 改めて思えばそれは、本当に何でもないことで。
 だからこそ、何よりも強く、強く、願う。
 手を伸ばした先に、笑顔で振り返った隣に、当たり前のように彼の笑顔がある。そんな何でもないことが、奇跡だというのなら。
 俺は俺の遣り方で。もう一度、奇跡を起こす為に。
「俺の力なんて、ちっぽけかもしれないけど」
 右手の銃を傍らの用水路へと投げ捨てて、リトアニアは決意を秘めた瞳を穏やかに微笑ませた。






 この手を銃を取る為でなく、隣人の手を握る為に掲げよう。
 大地を想い、海を想い、そこに生きる命を想い、この声の続く限り愛を歌おう。
 ―――平和が、奇跡だというのなら。
 きっと、こんなちっぽけな、何でもないことの全てが、それを形作る欠片となるのだろうから。



















タイトルの「Malda」はリトアニア語で「祈り」という意味です。

初ヘタリア小説は念願の立波で!!
―――ってか、初書きがこれってあんまりじゃね?ヘタでこんなシリアス誰が読むの…?
…自分のセンスのなさに軽く絶望した…orz
本家で未だ更新されていない第6話「ともだち侵攻」を妄想したら、
もうどうにも色々止まらなくなってしまいまして…!!
だって、リトとポーが敵味方に分かれて戦うなんて展開、哀しくて切なくて美味しすぎる!!←
あと、リトがアメリカに出稼ぎに出てた時って、丁度ポーランドに首都取られてた時期と重なるんですよね…。
アメリカにポーランドのことを話してたとき、リトは笑ってたけど、
実は内心、寂しさと切なさと焦りと不安の入り混じった複雑な感情を抱えてたのかもしれないなぁと、
そう考えただけで、どうしようもないくらいに滾った自分の頭が、本気で心配になりました…;
もう本当にコイツら可愛すぎる…大好きだ!!

本作を書くに当たって、ポーランド・リトアニア史を一応調べはしましたが、
捏造も多大に入ってますので、細かいツッコミはご容赦願います…。
矛盾する箇所を見付けたら、華麗にスルー発動。これ当サイトのお約束です←








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