「チェックメイト」



 勝利を宣言する声は、心持ち弾んだ響きを帯びたように感じられた。やや猫背気味の姿勢で盤上の駒の行方を食い入るように見詰めていたカルマは、対戦相手の得意そうな笑みに肩を竦め、無念の溜息を吐く。
「また負けちゃった。やっぱりスノウは強いね」
 両手を挙げて降参の意を示すと、スノウは笑みを深くした。
「いや、君も随分腕を上げたね。この前よりもずっと強くなった。けど慎重になり過ぎる余り逆に詰めが甘くなるところは相変わらずだね」
 スノウはそう言うと、盤上に幾つかの駒を並べなおし、一つずつ指で追うように先程の動きをなぞる。
「ほら、さっきのここのところ。折角クイーンをこの位置まで持ってきたのに、僕のルークの動きが気になって引いちゃったでしょ。で、結局ここにいたビショップに攻撃を許してフォークになってる。折角良いタイミングでキャスリングしたのに、これじゃ台無しだよ。多少危ない場面であっても、時には勝負を賭ける思い切りも必要だよ。機を逃してしまっては元も子もないからね」
 白く長い指先が、カルマの陣営から黒のキングを取り上げる。大人びた仕草で手の中の駒を弄ぶ彼の誇らしげな表情に、穏やかな、しかし少しばかり悔しそうに見える微笑で応えてみせることぐらい何でもなかった。
「うん、スノウの言うとおりだね。次からはもっと頑張るよ」
 スノウは微笑んで頷き、駒を置いて立ち上がった。
「さあ、そろそろ行かないと。訓練の時間だ」
「そうだね」
 先に部屋を出て行ったスノウの後を追おうとして、カルマはふと遊戯版を振り返る。今し方の彼のように白の陣営からキングを取り上げると、その仕草を真似て掌中で転がしてみた。
「わかりやす過ぎるところは相変わらずだね―――」
―――ルークの動きもビショップの位置も、カルマの計算には入っていた。そのまま自らの駒を押し進めれば、喩え黒の女王を犠牲にしようとも、後に控えた忠実なる騎士が、彼の喉元に鋭い剣の切っ先を突きつけていたはずだった。敢えてそれをしなかったのは敗色が濃くなった時の彼のその面に、明らかな動揺と屈辱の影が表れていたからに他ならない。
「ポーカーフェイスは戦術の基本だよ」
 騙されているということを、最後まで気付かせないでいられたのなら、僕の勝ちだ。
 腹の探りあいのような綺麗でない駆け引きは、やはり君には似合わないから。
 汚れるのも傷つくのも、僕一人で良い。
「君は僕が守るよ―――」
 穢れなきましろの王にそっと誓いの口付けを落とし、騎士は戦場を後にした。

 
















お題7「勝負」―――試合に負けて勝負に勝つ4様。珍しく(?)ちょっと黒めに書いてみました。
スノウは頭は悪くないので基本から外れなければ強さを発揮すると思うのですが
予想外の展開になると明らかに動揺が表に出て総崩れになるタイプだと思うので、
4様的には「やっぱりスノウには僕がいなきゃ!!」となる訳です(笑)
どうでも良いですが「駒」がいちいち「小間」と変換されてその度に無駄に悶えました…Myパソめ…!!(笑)





戻る?

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送